荏原製作所は、建築設備、産業設備の建築・産業カンパニー、石油ガス、電力、次世代エネルギーのエネルギーカンパニー、水インフラのインフラカンパニー、ごみ焼却施設の設計から運営管理を行う環境カンパニー、半導体製造機器やコンポーネントを生産する精密・電子カンパニーからなる産業機械メーカです。かねてより同社では、既存の2D CAD ライセンスコストの増加と全社的なライセンス共有に課題を持っていました。全社的なライセンス運用を実現するために、より価値の高い CAD ソリューションを選択する必要があったのです。
荏原製作所の大きな目標は、これまで社内の各事業体が主体となって契約・管理していたCADライセンスを統合することで、既存CADの契約を継続する場合に比べてランニングコストを削減することです。また、ライセンス運用を全社規模で行うことで、全社的な経営管理のより一層の効率化を目指しました。
課題
課題 #1:グローバルビジネスにおけるCADライセンスの効率を高める
荏原製作所には、建築・産業、エネルギー、インフラ、環境、精密・電子の5つのカンパニーに加え、それらの関連子会社など、数々の事業体があります。CADソフトについては、その各事業体が個別に選定・調達・ライセンス管理を行うのが従来のやり方でした。しかし近年、同じ2D CAD製品を多くの事業体で採用していたことから、ライセンス数が増えていました。
荏原製作所 情報通信統括部 バリューチェーンシステム部 部長の大塚 誠氏 は、以下のように説明します。
「同じ製品を、各事業体や各部署で個別に調達していました。購入した販売代理店もそれぞれ異なっており、現状を調べ上げるのも大変でした。内部統制の観点、そしてコスト効率という面からも、こういったライセンス契約は会社として一元的に管理することが望ましいと、以前から対処を検討していました。」
課題 #2:既存2D CADのライセンスコストを削減したい
2D CAD移行が本格化するきっかけは、それまで社内で広く使われてきた主要2D CAD製品について、メーカ側がライセンス体系を見直すというアナウンスを出したことでした。
特定の使い方ではサブスクリプションのみになるなど、費用負担増加となるような内容だったのです。
荏原製作所にとって、適切なライセンス構造による柔軟なCAD運用の実現は、長期的に投資コストを削減し続けるためには欠かすことのできない要素でした。
課題 #3:CAD移行によるコスト削減効果を試算
「既存2D CAD契約状況を洗い出し、新たなライセンス体系に沿って試算したところ、全社のライセンスを統合してもあまり安くならないボリュームだと分かりました。一方で、これまで使っていた2D CADと互換性があり、コストやライセンス管理の面でも使いやすい移行先として、代理店が新たに提案してきたのがBricsCADです。」 と大塚氏は言います。
そこで荏原製作所では2D CAD移行に乗り出し、大塚氏主導のもと選定から各事業体との調整まで、移行プロジェクト全体を取り仕切りました。そして、より柔軟なライセンス体系を目指すべく、既存で契約していた2D CADとのパフォーマンス評価を行いました。
解決
BricsCAD採用の重要なポイント:コストメリット、操作性、ライセンス共有
競合となり得る製品も含め多角的に比較検討し、荏原製作所が求める機能を一通り備えていること、ライセンス体系も既存の運用を変えずに済むことなどを評価し、BricsCADの採用を決定。
BricsCAD採用の最大のポイントは、5年間で約60%の投資削減につながるという試算結果です。
既存の2D CADを使い続けると仮定した場合と、BricsCADへ移行した場合のコストを比較すると、かなりのコストメリットが得られると大塚氏は強調します。
「BricsCADは、製造業だけでなく建築や土木でも実績があります。当社は製造業ですが、プラントなどの事業では建設業に近い業態でもあります。この点で当社に適したCADソフトといえます。また子会社のライセンスも共有できるなど当社の使い方にも親和性が高いことから、各事業体のキーパーソンにも納得感があったと思います。」
新しい CAD ソリューションへの移行を成功させるための体系的なアプローチ
続いて実施したトライアルでは、各事業体のキーパーソンに人員を選んでもらい、できるだけ多くのユーザーにBricsCADを使ってもらうようにしたそうです。トライアルの中で挙げられた課題や問題については、製品開発などでよく使われる不具合管理表をもとにした手法で対応したといいます。
大塚氏が特に意識したのは、現場の納得感です。
現場の作業員が納得して使ってくれなければ、移行もなかなか進みません。
そのため、トライアル中に挙がってきた課題は、基本的に全てを課題管理表で管理し、できるだけ迅速に処理・対応するようにしました。
CAD ライセンスの柔軟性と全社共有に向けた段階的なアプローチ
2020年10月にBricsCADのライセンス契約を行い、既存2D CADのライセンス期間終了が迫っていた一部の部署から順次展開していきました。
現在、ライセンス数は合計で約220 に及んでおり、残る部署には2021年度契約でライセンスを追加し、当初の計画に近い形で順調に移行しています。
ステップ1:もともと2D CADは事業体ごとにライセンスを保有し、事業体の中で共有していたが、BricsCADに移行するにあたり各事業体にその一部を占有することを許可した
ステップ2:事業体が占有する数を減らし、削減分の半数を全社共通ライセンスとして購入することで、全体の費用を削減
ステップ3:ライセンス利用状況を集計・可視化し、不足が生じないことを確認
ステップ4:次のライセンス更新では、事業体占有から全社共通ライセンスへ移すことに
なお、このライセンス管理を行うサーバは社外クラウドサービス上に設置しました。コロナ禍で在宅勤務など、柔軟な働き方を取り入れるうえで、クラウドに置いた方が有利だという判断です。この形態なら、社外でCAD作業をする際にも社内へのアクセスを減らすことができ、使いやすくなると大塚氏は言います。
「2022年度更新分では、この手法でライセンスを削減しても問題なく運用できています。もちろん利用状況の集計・可視化は継続的に行っており、今後は状況に応じてライセンス数の増加もあり得ると考えています。」
結果
2D CADのパフォーマンス面の評価を高く評価
大塚氏は、今回の移行を通じて、BricsCADを以下のように評価しています。
「まず、既存2D CADの代替として文句ないソフトだといえます。使い勝手についても、導入後も大きな問題は出ていません。ソフト自体が軽く、ストレージの占有量や起動時間などは満足度が高いです。ユーザーからは、さらにパフォーマンスが改善したという声も聞かれています。」
シンプルなライセンス移行により社内でベストプラクティスとして認定
BricsCADは全てネットワークライセンスとして導入しており、既存CADの一部で使っていたスタンドアロン版ライセンスの管理負担もなくなりました。今回のBricsCAD導入は、各事業体の横串を通す形でのガバナンスやコスト管理を実現できた「ベストプラクティス」として、情報通信統括部内でも評価されています。
柔軟な3D CAD機能の活用も視野に
BricsCADへの移行は2D CADの大半で行われたものですが、既存の設計資産データなどの都合から一部では別の2D CADも使い続けられています。一方、3D CADについては事業体ごとの要件が大きく異なり、現状では一元化が困難とみられます。しかし、大塚氏は、これらの一部についてもBricsCADで対応できる可能性があると考えているそうです。
「別の2D CADが残っている点については、データの変換を行うことで多くをBricsCADへ吸収できる可能性があります。また3Dの活用はかなりの需要がありますから、BricsCADを補助的な3D CADとしても活用することができるかもしれません。そういった工夫も検討しつつ、今後も引き続き、コスト削減や利用拡大、ユーザー満足度向上などに取り組んでいきます。」
東京、日本
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