CADを利用する設計・製図業務において、リモートワークの普及に伴い、情報漏洩対策の強化が求められています。その結果、ノートPCの持ち出し制限や、社内PCへのリモートアクセスといった制約が生じるケースがあります。
このような状況下で、事務処理などで既に導入されているクラウドVDIを活用し、CADもクラウド上で実行できないかという検討が進むのは自然な流れです。
CAD利用におけるリモートワークは、セキュリティとパフォーマンスの両立が課題となります。仮想デスクトップ(クラウドVDI)の導入は、これらの課題解決の一つの手段ですが、慎重な検討と準備が必要です。
BrcsCAD でのご利用条件
CADソフトの多くは VDI 環境での利用を認めていないか、制限がかかっていることが多かったのですが、 BricsCADでも要望を頂くことが増えてきたため利用条件を整備し、一定の条件下でクラウドVDI環境での利用が許可されるようになりました。
ライセンス: ネットワークライセンス(Reprise版)の使用が必須です。シングルライセンスやボリュームライセンスでは利用できません。
申請: クラウドVDIでの利用開始前に、BricsCADのVDI利用許諾申請書を提出し、承認を受ける必要があります。
各社の仮想デスクトップ(クラウドVDIサービス)
クラウドVDIサービスは、Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azureなど、多様な選択肢が存在します。
本稿では、2022年8月に実施されたMicrosoft Azure Virtual Desktop®(以下、Azure VD)上でのBricsCAD運用検証の結果を共有いたします。
Azure Virtural Desktop での環境構築
以前、 SB C&S社主催のウェビナーで紹介した動画をご覧ください。
動画: https://youtu.be/tn-MHicoqJ8
この事例では、BricsCADのネットワークライセンス管理サーバーと、ユーザーがCADを利用するためのデスクトップ環境を、それぞれ独立した仮想サーバー上に構築して運用しています。
運用のポリシーに合わせて仮想ではないサーバーなどと組み合わせて環境を構築することも出来ます。
環境は一度設定してしまえば通常の社内PCに VPN接続して使う VDI と変わらない感じで利用することが出来ます。
クラウドとローカルの環境別パフォーマンス比較
実際に環境によるパフォーマンスを比較するためにベンチマークを取ってみました。
比較環境は次のとおりです。
GPUなしの Azure Virtural Desktop® VDI 環境 (D4s v3)
GPUありの Azure Virtural Desktop® VDI 環境 (NV8as v4)
GPUありのクライアントノートPC - Corei7 第11世代
GPUなしのクライアントノートPC - Core i7 第8世代
Azure 環境とクライアントPC環境で LISPプログラムを使った
ベンチマークテストの結果比較
今回の結果では、以下のような点がわかりました。
APIを使用したロジカルな処理は特に影響ない。
(つまり性能的にはアドオンを載せて利用する事も考えられます。)
ファイルの I/O は VDI環境のほうが早いこともある。
3D グラフィック処理による描画更新が伴う処理については顕著なパフォーマンスの低下が見られる。(但し数年前のモバイルPCとの差は小さい。)
2D 視点かつ2Dワイヤフレームの状態だとCPU のみの処理となるため体感的な差は軽微なレベル。
この結果は、ネットワーク接続が高速なブロードバンド環境で行った結果となっています。
クラウド環境(VDI)で快適に利用するための設定
BricsCADをVDI環境で利用する場合、ローカル環境と比較して表示パフォーマンスが低下することがあります。これは、画面がネットワークを介して転送されるため、遅延や帯域幅の制限など、様々な要因が影響するためです。
しかし、画面転送技術の進歩やBricsCADの設定変更によって、このパフォーマンス低下をある程度緩和することができます。
表示の推移機能をオフにする ( vtenable = 0 )
クロスヘアカーソルの長さを短くする ( cursorsize = 3 )
ディスプレイの解像度を下げる(OSのディスプレイ設定)
アンチエイリアス表示しないようにする(AntiAliasScreen=0)
ステータスバーの座標表示をオフ、またはクリック時更新にする
( coords = 0 )
選択のハイライトを無効にする(HIGHLIGHT=0)
ダイナミック入力をオフにする(DYNMODE=-1)
パネルのスタッキング表示を作図領域上で展開する設定にする
折りたたみパネルの表示設定
CAD操作における頻繁な表示更新がVDI環境の描画パフォーマンスを低下させ、もたつき感につながることが多く、表示更新範囲と頻度を減らす設定や、10Mbps以上の高速・低遅延なネットワーク環境の確保が、ローカルPCに近い快適な作業環境を実現する上で重要です。